静岡県西部に広がる浜名湖。その穏やかな水面の下で、ウナギたちの未来を左右する大きな挑戦が始まっています。かつては豊富だったウナギの資源が急速に減少する中、地元の人々が立ち上がり、独自の保全活動を展開しているのです。その取り組みは、私たち一人一人にも関係する重要な問題なのです。
「ここ10年で、ウナギの養殖を取り巻く環境は劇的に変化しました」と語るのは、浜名湖発親うなぎ放流連絡会の加茂仙一郎会長です。信州ウナギ調査隊に対しての特別講義を担当してもらいました。長年ウナギの養殖に携わってきた加茂会長の表情は、深刻さを隠せません。
特に深刻なのは、天然のシラスウナギ(ウナギの稚魚)の激減です。「かつては、冬になると大量のシラスウナギが河口にやってきました。それが今では、その数のわずか1%程度しか獲れないんです」と加茂会長は嘆きます。この状況は、養殖業者を直撃しています。シラスウナギの価格は高騰し、小規模な養殖業者の中には廃業を余儀なくされるケースも出てきているのです。加茂会長は続けます。「養殖には様々な問題がありますが、最大の課題は天然資源の減少です。エサの問題や病気の管理など、技術的な課題は徐々に克服されつつあります。しかし、そもそもの種となるシラスウナギがいなければ、養殖そのものが成り立たなくなってしまうのです」
しかし、この危機的状況の中で、浜名湖では希望の光が差しています。それが「浜名湖発 親うなぎ放流事業連絡会」です。この取り組みは、産卵のために海に向かうウナギを買い取り、太平洋に放流するというユニークなものです。
※写真:浜名湖発 親うなぎ放流連絡会事業報告書より(令和5年度)
「毎年約1000匹、400kgほどのウナギを放流しています」と加茂会長は説明します。「天然のウナギを産卵場所に返すことで、資源の回復に直接つながるんです。これは、ウナギの生態を考えると非常に効果的な方法なんです」
ウナギは、産卵のために太平洋のはるか彼方まで泳いでいきます。しかし、その途中で多くのウナギが漁獲されてしまいます。この事業は、そうした運命にあるウナギたちを救い、確実に産卵場所まで送り届けるものです。
しかし、課題もあります。「まだまだ認知度が低いんです。もっと多くの人に知ってもらい、参加してもらうことが必要です」と加茂会長は語ります。
浜名湖の水は、実は長野県の天竜川から流れてくる水と太平洋の海水が混ざったものです。つまり、内陸の私たちの生活も、ウナギの未来に関わっているのです。
加茂会長は最後にこう締めくくりました。「ウナギの問題は、決して遠い世界の話ではありません。みなさん一人一人が、自分事としてウナギや浜名湖のことを考え、行動してほしいのです」
ウナギを守る活動は、私たちの身近なところから始まっています。その小さな一歩が、やがて大きな変化を生み出すかもしれません。ウナギの未来は、私たちの手の中にあるのです。