海から遠く離れた内陸の街、長野県飯田市が「海ノ民話のまち」として認定されました。この意外な展開の背後には、古くから語り継がれてきた民話と、それを現代のアニメーションとして甦らせたプロジェクトにありました。
飯田市に伝わる「うしろむき弁天ものがたり」。この民話が、海と山をつなぐ架け橋となったのです。日本昔ばなし協会と日本財団が取り組む「海ノ民話のまちプロジェクト」により、この物語がアニメーション化されました。
アニメの完成を記念して、2025年2月1日、アニメ監督が飯田市を訪れ、佐藤健市長を表敬訪問しました。佐藤市長は「海ノ民話のまち認定証をいただき、ありがとうございました。内陸部の飯田市が認定をいただくというのは非常に嬉しく、またびっくりもいたしました」と、その驚きと喜びを語りました。
山と海をつなぐものとして、このアニメーションでは川が重要な役割を果たしています。飯田市を流れる天竜川が、海への架け橋となっているのです。さらに、地元で「カッパ」を意味する「かわらんべ」という言葉を用いるなど、地域の特色を生かした親しみやすい作品に仕上がっています。
「うしろむき弁天ものがたり」のアニメーションは、単なる娯楽作品ではありません。地域の歴史や文化を伝える重要な役割を担っているのです。
佐藤市長は「地域内に昔、こういう争い事があったことも、子供たちにとっていい意味で歴史を知る機会になると思います」と語りました。また、300年前に起きた三六災害についても触れられており、地域の歴史を学ぶ貴重な教材としての価値も認められています。
同日、松尾公民館で開催された上映会では、地元の方々約30名が参加。「海なし県の長野に、海につながる民話があるなんて思わなかった」「地元に伝わる歴史がこういう形で残るのは嬉しい」といった感想が聞かれ、アニメーションが地域の人々の心に響いたことがうかがえます。
このプロジェクトは、単に過去の物語を蘇らせるだけではありません。地域の伝統と新しい表現方法を融合させ、新たな文化の創造にもつながっています。
上映会では、「天竜舟下り唄保存会」による舞踊が披露されました。これは、アニメーション制作をきっかけに発足した団体で、歌詞に「うしろ弁天」が登場する『天竜舟下り唄』を後世に伝えていく活動を始めています。
さらに、地元の伝統工芸品である「飯田水引」を使用したオリジナルストラップや、「ひさかた和紙」を使用したしおりなど、アニメとコラボレーションした商品も販売されました。これらの取り組みは、地域の伝統産業の活性化にもつながる可能性を秘めています。
「海ノ民話のまちプロジェクト」は、海との関わりと地域の学びを子どもたちに伝え、語り継ぐことを目的としています。飯田市の事例は、直接海に面していない地域でも、創意工夫次第で海とのつながりを見出し、新たな文化や教育の機会を創出できることを示しています。
山国の街が「海ノ民話のまち」に認定されたことは、日本の豊かな文化と歴史の深さを物語っているのかもしれません。これからも、このプロジェクトが日本各地に広がり、さまざまな地域で新たな発見と創造が生まれることが期待されます。