私たちの食卓を支える海の恵み。しかし、近年その海に異変が起きています。サケやサンマの不漁、漁獲時期の変化など、漁業に大きな影響が出ているのです。この危機に立ち向かうため、漁業者と研究者が手を組んだ画期的なプロジェクトが始動しました。海の現場を知る漁業者と、最先端の科学を駆使する研究者。この異色のコラボレーションが、日本の漁業の未来をどう変えていくのでしょうか。
2010年頃を境に、日本の漁業は大きな転換点を迎えました。サケ類やサンマなど、主要魚種の漁獲量が急激に減少し始めたのです。全国漁業協同組合連合会によると、若手漁業者からは「海洋環境の変化を感じる」「漁業が継続できなくなる」といった不安の声が上がっているといいます。
海水温の上昇をはじめとする海洋環境の変化は、漁業に深刻な影響を及ぼしています。魚が獲れる時期や場所が変わり、時には見慣れない魚が網にかかることもあるそうです。これらの変化は、漁業者の生活を直撃するだけでなく、私たち消費者の食生活にも大きな影響を与えかねません。
この危機的状況に対応するため、日本財団、全国漁業協同組合連合会、東京大学大気海洋研究所が手を組み、「海洋環境変化対応プロジェクト」を立ち上げました。このプロジェクトの特徴は、漁業者と研究者が密接に連携する点にあります。
全国12道府県の13地点で、若手漁業者が操業時に水温データなどを継続的に採取し、大気海洋研究所に提供する仕組みが構築されました。さらに、スマートフォンアプリを使って、見慣れない魚の出現やサンゴの白化などの異常事象も報告できるようになっています。
東京大学大気海洋研究所の兵藤晋所長は、「漁業者の皆さんから得られたデータをきちんと解析し、海で何が起きているのか、今後の対策に資する成果を得たい」と意気込みを語っています。
このプロジェクトは、2025年度からさらに拡大される予定です。全国20地点程度にデータ収集地点を増やすとともに、塩分濃度など収集するデータの種類も拡充されます。研究者たちは、これらのデータを詳細に分析し、漁業者と共に具体的な対応策の検討や提案を進めていくことになります。
JF全国漁青連の顧問である川畑友和氏は、「現場の声を科学的なデータとして活用できることは、私たち漁業者にとって大きな希望です」と期待を寄せています。
海の環境変化に対応し、持続可能な漁業を実現するためには、現場の知恵と科学の力の融合が不可欠です。海の声に耳を傾け、科学の力で解き明かす。その先に待つ未来の漁業の姿とは、どのようなものなのでしょうか。
※画像はすべて日本財団からの提供