鋭い眼光に、生々しい鋭い歯。深海魚のラブカです。
その他、マグロにアンコウ、ブリ。生き生きと泳いでいるかのような魚たちがたくさん。
実はこれ、本物の魚をもとに作られたはく製なんです。制作したのは、魚のはく製を専門に手掛ける松本市のオガワアートコレクション代表の小川貴光さん。これまでに大小合わせて、およそ200種類を手掛けてきました。
「水族館の魚は泳いでいる姿は見られるが、すぐ動いてしまう。その点、はく製はじっくりとずっと眺めることができる」と小川さん。制作している工房にお邪魔しました。
先ずは皮をはぐところからスタート。丁寧に身から切り取っていきます。そして、ウレタン素材のものをカッターでそぎ落としながら形をつくっていきます。(海の大型魚の場合は石こうで型を取る)再度、皮を張り付け、乾かし、最後は色付けの作業。色をまぜながらスプレー塗装で本物そっくりの色に近づけていきます。
もともと自動車の看板塗装などを手掛ける仕事をしていましたが、魚釣りの趣味がこうじて、はく製作りを始めました。
釣り具店に飾ってあるものや雑誌や広告のはく製を見て独学で技術を磨いていきました。釣った魚を思い出に残したいというお客さんの要望で作り続けると評判はうなぎのぼり。魚のはく製を専門にしたアートの世界に飛び込んでいきます。
最近では、その完成度の高さから、学術的に利用したいと全国の水族館から依頼を受け、リュウグウノツカイなど貴重な深海魚を手がける事も増えています。2020年には、体長5mの「メガマウスザメ」のはく製を静岡県の水族館に納めました。制作期間は1年に及びました。
小川さんがこだわっているのは、魚の「躍動感」と「流動感」です。決して動かないものですが、まるで海の中を泳いでいるような一瞬を切り取り形にしていきます。また、貴重な魚を後世に残すのが自身の使命とも考えています。「博物館、水族館に展示すると多くの方が見に来る。そうなると手は抜けない。やっぱり日本一のものを作るつもりでないと要望に応えられない。常に追求。どこまで極めるかです。」と小川さん。
未来の子供たちに向けて魚ファンを増やす活動も行っています。小川さんが手がけたはく製を一堂に会した展示会「魚魚展」を2022年からスタート。夏休み中の限定イベントですが、大勢の来場者が訪れています。今年も松本市の梓川アカデミア館で7月29日から8月6日まで開催。
魚を永遠の形に残して未来につなげることが使命と話す小川さん。次々と舞い込む依頼に毎回わくわくしながら取り組む姿は、海なし県信州におけるまさに海の匠です。