長野市で開催された「日本さばける塾in長野」。県内の親子7組20人が参加しました。海から遠く離れた地で、子どもたちが魚をさばき、海の環境問題を学ぶイベントです。アジとブリを使った料理体験では、参加者の目が輝き、海の豊かさを実感する声が響きました。未利用魚の存在についての学習や長野県の意外な郷土料理作りに挑戦しました。
「えっ、日本の近海で3700種類もの魚が取れるの!?」 子どもたちの目が丸くなります。でも、私たちが普段食べているのは、そのうちのたった600種類。残りの3100種類はどうなっているのでしょうか。調理体験の前に海の学びの授業から。講師を務めるのはマルイチ産商の惟村和志さん。不思議な形や名前の魚たちを次々と紹介します。 「これは『アイゴ』、これは『ゲンゲ』、そしてこれは…『オジサン』!」 「えー!オジサンって魚の名前なの?」教室が笑いに包まれます。
しかし、その笑顔はすぐに真剣な表情に変わりました。私たちが知っていたり、食べたりしている魚は、ごく一部。しかも世界中で、捕れた魚の35%が食べられずに捨てられているというのです。 「もったいない!」「どうして食べられないの?」 その質問に対し、 「こうした魚は未利用魚と言われていて、大きさが合わなかったり、見た目が悪かったりすると利用しにくいので、市場に出回らないんです。だけど魚には多様な種類があり、おいしく食べるための伝統的な技術も存在するんです」と説明します。「魚って、面白い!」という惟村さんの言葉に、子どもたちは大きくうなずきます。海の豊かさを守ることの大切さを、頭だけでなく心で理解し始めた瞬間でした。
「さあ、みんなで魚をさばいてみましょう!」。マルイチ産商と業務提携し長野県内に魚食ファンを増やす活動をしているクッキングコーディネーターの浜このみ先生の元気な声で、いよいよ魚さばき体験の開始です。
こどもたちは割烹着の衣装を着て準備万端。気分は板前さんです、初めて包丁を握る子どもたちの手は少し緊張気味でしたが、保護者と一緒に慎重にアジの3枚おろしに挑戦です。「まずは、アジを綺麗に洗って、ペーパーで水気を取りましょう」という浜先生の指示に、真剣な表情で取り組む参加者たち。「うわ、内臓が出てきた!」「ぬるぬるする~」と歓声が上がる中、次第に真剣な表情に変わっていきます。
苦戦する子もいましたが、浜先生の「コツは、包丁を立てて骨に沿って動かすこと」というアドバイスで、みるみるうちに上手にさばけるようになっていきました。魚をさばく過程で、子どもたちは魚の構造や、命をいただくことの意味も学んでいきます。魚の命をむだにしないためにも、きちんとさばいて、おいしく食べることが大切です。
「自分でさばいた魚、絶対おいしいはず!」と、子どもたちの目は期待で輝いていました。魚をさばくという体験が、食への興味と感謝の気持ちを育んでいく様子が、会場のあちこちで見られました。
さばいたアジとブリを使って、「アジのトマトソース煮」と「ブリのお雑煮」を作ります。「お雑煮にブリ?」と驚く声も聞こえましたが、これが長野県の郷土料理だと知ると、みんな興味津々。江戸時代、『ブリ街道』と呼ばれる流通ルートがあり、日本海から運ばれてきました。山国信州では、魚はとても貴重なごちそうでした。その名残から松本地方ではブリが市民熱愛の魚として今でも愛されています。
参加者がさばいたアジは、オリーブオイルでいためてトマトソースで煮込みます。そしてたっぷりのチーズとブロッコリーを入れて完成。今回は、ハンバーガー用のパンにはさんでいただきます。完成した料理を口にした瞬間、「うわ、おいしい!」という歓声が調理室中に響き渡りました。「自分でさばいた魚って、こんなに美味しいんだ」「お店で食べるより全然おいしい!」と、感動の声が次々と上がります。
ある保護者は「普段は魚を避けがちだった息子が、こんなに美味しそうに食べているなんて驚きです」と喜びを語りました。自分でさばいた魚の味は格別だったようで、食への興味と自信を深めた様子が伺えました。
浜先生は最後に、「今日学んだことを活かして、ぜひおうちでも魚料理に挑戦してみてください。魚を食べることは、海の環境を考えることにもつながるんですよ」と締めくくりました。
参加者たちは、海の恵みを実感しながら、環境保護の大切さも心に刻んだようでした。
「日本さばける塾in長野」を通じて、参加者たちは海の恵みの豊かさと、それを守ることの大切さを肌で感じることができました。海なし県の長野だからこそ、改めて海とのつながりを意識し、日々の食生活を見直すきっかけにもなったようです。