海洋ごみとは毎年少なくとも世界各国から800万トン以上発生しているプラスチックごみのことで、その多くは内陸で発生した後に水路や河川を伝って海に流れ出ています。海洋ごみについては科学的知見によるデータや根拠が不足していることが多いことから、日本財団と東京大学による共同プロジェクト「日本財団×東京大学 海洋プラスチックごみ対策事業」が2019年5月に開始しました。今回は2022年4月19日に記者発表された日本財団と東京大学によるプロジェクトで世界で初めて明らかになった2つのポイントについて解説していきます。
海洋プラスチックごみについて世界で初めて明らかになった2つのこと
日本財団と東京大学の共同プロジェクトでは、同大学内の海洋学・農学・生物工学・法学などの分野を横断した複数の学部に加えて、京都大学や東京農工大学などの研究者らを含む総勢50名がチームを結成して、同時進行で研究を進めてきました。この日の記者発表では、世界的に初めて明かされる成果を含めた海洋ごみ対策事業の3つのポイントについて語られています。ここからはこの3つのポイントの中から、世界で初めて明らかになったことを中心に2つのポイントと今後の課題についてわかりやすく解説していきます。
1.海洋マイクロプラスチックに関する実態把握
画像提供:日本財団・東京大学
研究で明らかになったのは、マイクロプラスチックと呼ばれる非常に小さな海洋ごみの小さなプラスチック粒子が、一定の法則に基づいて積極的に海水中から除去されて海底に堆積(たいせき)していることです。また世界で初めて国内(水産研究・教育機構)に保管されていた、日本周辺の太平洋における過去70年分(1949〜2016年)の海水サンプル7,000体に含まれていた海洋プラスチックを分析した結果、1950〜1980年代までおよそ10年間で10倍のペースで海洋プラスチックごみが増えていました。また、その後も確実に汚染が進行しており、1950年代から最近まで長期的に徐々に小型プラスチックの割合が増えていることがわかりました。この結果から、より環境負担が少ないプラスチックを製造者・利用者に提示して、利用や使用を促す必要があることが示されました。
2.マイクロプラスチックによる生体への影響
画像提供:日本財団・東京大学
この研究でわかったことは、増加したプラスチックの粒子濃度が生物に炎症などの悪影響を及ぼすレベルに近くなっていることで、例えば多摩川河口の魚や貝類などの水棲生物には、10〜30μmのマイクロプラスチックが蓄積していることがわかりました。そして世界で初めて、プラスチック以外の汚染源が少ないと考えられている沖縄県座間味島や西表島の離島で、各島でプラスチックやプラスチック関連化学物質の蓄積を調べた結果、プラスチック関連化学物質のほうが蓄積が進んでいることがわかりました。また蓄積したプラスチック関連化学物質は、生物の体内での代謝の過程で毒性の高い物質に変化することがわかりました。この生物の体内に蓄積する時間については実験が行われており、小さい粒子(1μm)は早い段階で排出されますが、一定量は長くとどまります。これに対して大きめの粒子(90μm)は初期の段階で排出は穏やかなながらいずれすべて排出されることがわかりました。最後に世界で初めて人体への影響についても確認されており、数十nmの微小粒子は血流へ、一方で数百nmのものがリンパ系に入ることが判明しました。これらの研究や実験によって、「入ったものは排泄物と一緒に体外に出る」とは楽観視できず、長期的なモニタリングと影響評価が求められることがわかりました。
まとめ
これまで海洋プラスチックごみについては科学的知見によるデータや根拠が不足していましたが、日本財団と東京大学海洋プラスチックごみ対策事業による研究と実験によって、これまで不足していたデータに新しいデータが加わりました。海洋プラスチックごみは他人事ではなく、海の幸をいただく人間にとって大きな課題となります。今回の研究・実験では人体への影響も確認されており、私たちひとりひとりがプラスチックごみと向き合って意識を高める必要があるのではないでしょうか。