海なし県”信州”で海と深いつながりのある海の食材のひとつが寒天です。寒天の生産量日本一を誇る長野県諏訪地方。今、最盛期を迎えている製造の現場を諏訪市に本社を置く有限会社イリセンの茅野文法社長に案内してもらいました。寒天は、テングサと呼ばれる海藻を原料としています。これを水洗いして窯で煮出し、煮汁を固めてできたプルプルのトコロテン状態のもとを、天然の寒さで凍らせ、乾燥させたものが寒天です。海から遠く離れた信州でなぜ寒天づくりが盛んになったのには理由があります。それは長野県の冬の気候が寒天作りにとても適しているからです。長野県、特に諏訪地方は、夜の冷え込みが激しい一方、日中の晴天が多いのが特徴です。なので、ところてんを凍らせて溶かすというやり方が適しています。江戸時代から続く伝統産業の寒天作り。しかし、最近は、地球温暖化の影響を受けています。「昔は12月上旬から3月上旬までのおよそ90日間、寒天を製造できたが、今では、冷え込みの期間が短くなり約60日間程度になった。」と話す茅野社長。昔ながらの寒天づくりが難しくなっています。長野県環境保全研究所によりますと、諏訪地方は、特に12月前半と2月中旬以降の気温が高くなっている傾向にあり、寒さが確保できずに生産期間が短くなっているのではと指摘します。伝統の産業品を守り続けたいとイリセンの茅野社長は次々とアイデアを生み出します。その一つが形にこだわらない寒天の商品化です。諏訪の寒天は棒状が特徴ですが、厚みがある分、冷え込みの期間がかかります。そこで、棒にせず、薄く延ばすことで、短期間で作ることにしました。このほか、設備を整え、1年を通じて体験可能な一般客向けのツアーを企画したり、お菓子寒天を作ったりしています。「この地域では、180年続く伝統産業。地球温暖化の影響を受けても伝統を守るため知恵をしぼり、寒天の魅力を多くの人にこれからも伝えていきたい」と茅野社長。立科山の美しい天然水。冬の夜の冷え込みが激しい一方、晴天率が高く、乾燥した気候。そして、伝統を守っていきたいとする製造元の想いが、海の恵みを生かした寒天づくりを盛んにしています。